書評:宮本輝「星宿海への道」〜泥臭さと兵站線。

  どうもこのところ肩こり、腰痛がひどく身体が重たい。そこで、今週末は、温泉に行ってこようと思っています、一人で・・・。旅行というよりも、ほとんど湯治という気分でしょうか?昨日は、「ニューヨーク、オオ!ニューヨーク!!」と叫んでいた私ですが、本当のところはつくづくに純日本的な、そして爺臭い人間であります。
  そこで、純日本的な小説の紹介です。


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  中国奥地で姿を消した雅人という男を巡る人間ドラマ。
  雅人の血のつながらない弟(≒主人公)のいきなりの長い独白に驚かされる。彼は、兄の失踪の理由を求めて、過去を探る。そして、次第に解明されていく雅人の過去。
  この辺のドロドロしさは、宮本文学の真骨頂、独擅場(※)である。最近(といっても読んだのは5年位前の新作だからずいぶん前かな)の海外を舞台にしたスタイリッシュな作品よりも、初期の泥臭さがいい感じである。
  と、つかみはOK!なのだが・・・。


  予定調和な偶然依存は、ミステリ小説ならば罵倒叱責モノであるが、まあ許そう。しかし、話が大きすぎるのだ。現代から過去、そして過去の過去。いや、めまぐるしくシーン展開するというわずらわしさは感じないのだけど、なにしろ話が広がりすぎて、未消化な伏線が多すぎるのが難点。思わせぶりに開陳しておいて、それはないだろう、オチをおくれよ。戦線を拡大しすぎて、兵站線が追いついていないのだ。


  とまあ、悪いところをあげつらいましたが、久しぶりに日本人の書いた小説を読んだ心地よさは格別です。ホンヤクの良し悪しに関わらず、(おそらく)「日本語で思考」して、日本語で表出された小説。読み易いものです。


p.s.
私にとって、本作品は消化不良でしたが、
「海岸列車」や「ここに地終わり海始まる」は大好きな小説です。
あと、齢30を超えた現在読んで同じ感動が味わえるか心配ですが「星々の悲しみ」はお勧めです。


p.s.
※豆知識です。
×独壇場、○独擅場(ドクセンジョウ)。
本当かって?さあ、「広辞苑」にレッツゴー!!