考察:翻訳について②〜ブラッドベリは原著に勝りきや?

  お盆休みも終わり、通勤電車に活気が戻ってきました。
  ガラガラと空いた車内は、盆休みのないドロリーマンの私に、真夏の夜の素敵な夢を見させてくれたものです。夢から覚めたドロな私を哀れんでくれたのか、神様さん、グッドジョブ!


  車両故障発生。


  電車が止まり遅延決定。これ幸いに地上に出て、お堀の水面を抜ける涼しい風に吹かれながら、一服してボンヤリ佇む心地よさ。クセになりそうです。・・・まったく小さすぎる私であります。

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  翻訳の話の続きです。


  レイ・ブラッドベリ「太陽の黄金の林檎」(小笠原豊樹訳)
  24の短編が収められた作品集です。それぞれ全く異なる趣向を凝らした小編ばかりですが、いずれの作品も読み終えた後に、本を閉じて、目を閉じて余韻に浸る至福を味わえます。この中の一編「四月の魔女」から引用してみましょう。
  その前に、作品の骨格の説明を少しだけします。どんな生き物にも乗り移ることの出来る妖精少女が、人間の思春期少女の精神に乗り移ってしまうという幻想譚であります。と補足しておかないと、誤解を招きかねない引用なのです。


>すばらしい肉体だった、(中略)。
>ほっそりした象牙のような骨に、ほどよく肉がついている。
>脳髄はくらやみに咲く紅色の庚申薔薇のようで、口のなかにはリンゴ酒と葡萄酒をつきまぜたような芳香がただよっていた。
>(中略)、眉は世界にむかって美しい弓の形を描き、美しい髪はミルク色の顎筋をなぶっていた。
>(中略)この肉体、この頭のなかに住むことは、暖炉の火にあたたまることであり、
>ゴロゴロ鳴る猫の喉に住むことであり、昼となく夜となく海へ流れるなまぬるい河水にひたることでもあった。


  「庚申薔薇」、「顎筋」。変換できないよ。まったく、原文はどうなっているのでしょうか?また「くらやみに咲く」、「なまぬるい河水」という表現、文字のバランスがとても良いですね。26文字のアルファベットの順列組み合わせから、かくも美しいバランスが生まれてしまうのです。「声に出したい日本語」であると同時に、なによりも「目で見て美しい日本語」だと思います。
  小さな私の中で、名訳文学の最高峰であります。


p.s.
では世界に誇る日本文学の英語化を見てみましょう。
三島由紀夫豊饒の海」四部作、それぞれの英語題名です。


Spring Snow :原題 「春の雪」
Runaway Horses :原題 「奔馬
The Temple of Dawn :原題「暁の寺
The Decay of the Angel :原題「 天人五衰


「春の雪」はともかく、
「Runaway Horses」=走り去る馬。
なんだか、西部劇で逃走するガンマンを乗せる馬みたいですね。
「The Decay of the Angel 」=天使の堕落、ってエッチな映画みたいだよ。


とにもかくにも、「ホンヤク」という作業は、古今東西、とても困難な作業なのですね。