私は、権威に弱い。そして、ミステリ小説が好きだ。
 そこで、舞城王太郎である。


 メフィスト賞を受賞してのデビューはバリバリのミステリ作家であり、芥川賞の候補になったという経歴はベラボウな権威である。そこで、第19回メフィスト賞受賞の「煙か土か食い物か」(講談社文庫)を読んでみた。
うーん。ミステリとしては・・・。ぶっちゃけ放言すると、「認められねえな、けっ!」って感じだ。トンデモ・ミステリだな。ばかやろう!って放り投げたいぞ。蘇部健一「6枚のとんかつ」(講談社文庫)を髣髴させるナゲステ・ミステリの再来、と言ったら言い過ぎか?
 ところがどっこい。純文学的側面(ってなんだ?教科書教条的に申すと普遍的なテーマを描いた文学的側面ですかね?)から光を照射したところ、「むぅ、後に天下の芥川賞候補となる萌芽は既にしてあらん!」と会得がいったのである。と言いたいのだが・・・、はっきり言って、よくわからん。
 トンデモなミステリから離れて考えると、憎しみ合う家族とその再生がポイントなんでしょうが、ちょっと外しているよ。いや、外しているというか、あまりにベタベタで、厳しい物言いするなら、スベっている。この点に関しては、三文ソープ・オペラと言われても仕方がないだろうなあ、と冷たく思う。むぅ。

 忘れていたけど、ここであらすじ。
 母親が何者かに殴打され意識不明になったとの報を聞いた主人公。急遽サンディエゴの手術 室(彼は腕利きの外科医である)から、一躍勇躍日本に帰り来て、昔馴染みの幼馴染みは、えー、警視庁のキャリアに検事さん、加えてアッシーくんを一同集合させては、犯人探しに注力する、って話でございます。要約すると、地元の同窓生を集めて事件を解決する、という話である。地元「青年」探偵団の活躍話ですわな。
 さて、主人公。仲間に恵まれ、女にもてる、喧嘩の腕はたつ。おまけに手術中に吟ずるは、ダンテの「神曲」。しかしながら家族の愛に恵まれず。そんなわけでね、ちょっと甘えん坊。まったくなんて奴だ、けったくそ悪いったらありゃしない。そんな彼が、見事に暴いた事件の真相は?それは読んでのお楽しみ!脱力するぞ、おいっ!


 しかし憎めないんだなあ。いや、モテ主人公ではなくて、この小説が。悪口ばかり書き殴ってきたのだけど、なにか引っかかる。思わせぶりに書くまでもなく、読み始めから読者を引き込むドライブ感だ。意味があるようにみせかけて、本当は意味が無いんじゃないかな?って勘ぐらせるほど、ドライブ感が先行している。
 著者は、こう迫ってくる。


>ああ俺は苦痛に負けそうなんだ。弱気になってる。
>何だよ誰かに守られたいって。誰かの胸で眠りたいって。
>お前は傷ついた少年か。保護の必要な未成年か。お乳の吸い足りないママズボーイか。
>しゃんとしろこの野郎。目を開けろ。(中略)ドントビッチアバウトエヴリシング。ドント・ビッチアバウト・エヴリシング!


 こんな一節に出会えただけで、この本を放り捨てるのをやめた。
 本当は、ミステリとかプロットとかどうでもいいんじゃないの?実際、まったく意味なし、考えさせてごめんなさい、エヘヘヘ。ってな確信犯なのではないかしらん。読み終わった後に頭が痒くなる悩ましい小説である。


 なにはともあれ、本作品のドライブ感に影響さてしまった私は、権威に弱く、ミステリが好きで、調子に乗りやすい、そんな人間である。