御殿さま


  兄が実家近くに家を建てていた。それが先ごろ完成したらしい。地上三階地下一階。ゴージャスな御殿、と思いきや、狭小住宅の端っこにも席がなさそうな小さな、小さな家。引越し状況なんかを聴きたくて、母ちゃんに電話した。元気そうで安心した。今まで実家マンションに一時的に居候(チビの学区域の関係)していた兄家族(チビ三人含む)と別れるので、意気消沈しているかと思っていたが、杞憂だったようだ。別れると言っても100メートル先だし。

  偏屈なところがある兄だけど、やっぱり長兄だけあって偉いものだ。さりげなく一人暮らしの母親の近くに家を建ててしまうのだから。とあれ、都会の一軒家暮らし。なにかと物騒な世の中だから、今度チビたちに護身術を教えてあげなくちゃな。
  戦わず逃げること。恥も外聞もなく、大声を上げて一目散に逃げること。大人であるならば、対峙克目してチビを守るために盾になる覚悟が必要だが、チビはとにかく逃げることが戦いであると思う。なんて、戦う、戦うと物騒なのは俺のほうかも知れないな、と思う秋風の気持ちよさ。